OOH(Out of Home)広告、すなわち屋外広告や交通広告は、企業のブランド認知度向上や大規模なリーチ獲得に欠かせない施策です。しかし、デジタル広告のようにクリックやコンバージョン(CV)で直接効果を測れないため、広告担当者にとって「投資対効果(ROI)が見えにくい」ことが長年の課題となっています。
「高額なOOH広告費が、事業KPIにどの程度貢献したのかを定量的に説明したい」 「媒体から提供されるレポート以上の、具体的な成果を測定したい」
本記事は、そうした課題を抱えるマーケティング担当者様向けに、抽象的なOOHの効果を事業KPIに直結する数字に変えるための、具体的な効果測定手順とROI算出の全ノウハウを解説します。
OOH広告の「効果測定が難しい」と言われる3つの根本原因
OOH広告の効果測定が困難とされる背景には、その媒体特性に起因する要因と、測定環境による要因があります。
OOH(Out of Home)広告とは?(定義と主要媒体の種類)
OOH(Out of Home)広告とは、「家庭の外」(Out of Home)で接触するすべての広告媒体の総称です。主に、生活者の移動動線や特定のエリアでの接触を通じて、メッセージを伝えます。
| OOHの種類 | 媒体例 | 主な特徴と目的 |
| 交通広告 | 駅のポスター、電車内の中吊り、車体広告、駅構内のデジタルサイネージ | 通勤・通学などの反復接触により、特定のターゲット層に集中的にアプローチ。 |
| 屋外広告 | ビル壁面、屋上看板、大型デジタルビジョン、バス停広告 | エリア限定のブランディングや、ランドマークとして利用され、広範囲の認知度向上に貢献。 |
| DOOH (Digital Out of Home) | デジタルサイネージ(駅、商業施設、タクシー内など) | 時間帯や天候、ターゲット属性に応じてコンテンツを柔軟に変更できる、現代の主流なOOH形態。 |
OOHの効果はなぜ抽象的になるのか?(間接効果・遅延効果の存在)
OOH広告の最大の課題は、その効果がデジタル広告のように直接的な行動に結びつかない特性にあります。
- 間接効果(アトリビューションの難しさ) ユーザーはOOH広告を見た後、その場でWebサイトを訪れるわけではなく、後から指名検索を行ったり、店舗に来店したりといった間接的な行動を起こします。そのため、成果(CV)の要因をOOHだけに帰属させる(アトリビューション)ことが非常に難しいのです。
- 遅延効果(タイムラグ) OOH広告は認知やブランディングを目的とするため、その効果はすぐには現れず、数日〜数週間のタイムラグを経て現れることが一般的です。この遅れて現れる効果を正しく捉え、他の広告施策の「ノイズ」と切り分けることが、効果測定を難しくする根本原因となります。
効果測定の成否を分ける「測定期間とノイズ除去」の重要性
OOHの効果測定を成功させる鍵は、「いつ」「何を」を定義し、「ノイズ」を徹底的に排除することです。
- 測定期間の定義: OOHの効果は遅延するため、広告掲出期間中だけでなく、終了後数週間(一般的に2週間〜1ヶ月程度)を含めてデータを追跡する必要があります。
- ノイズの除去: 広告実施期間中に、競合他社のキャンペーン、自社のWeb広告やSNS施策の露出強化、季節性の要因(例:年末年始の購買増)など、OOH以外の要因を「ノイズ」として定義し、分析から除外する必要があります。このノイズの切り分けこそが、OOHの純粋な効果を抽出する上で、専門性と経験が求められる部分となります。
媒体側から提供されるOOHの効果測定レポートの中身
OOH広告出稿後、媒体社や代理店から提供されるレポートは、主に広告の露出量や認知度に関するものが中心です。これらはOOHの初期評価として重要ですが、事業KPIへの貢献度を測るには限界があります。
レポート1:従来の交通量・視認率(インプレッション相当)でわかること
これは、OOHの物理的な露出規模を測る基本的な指標です。
- 交通量(通行量): 広告が設置されたエリアや駅の周辺を通過した人数。
- 視認率: 交通量に対して、実際に広告に注目したと推定される人数の割合。(例:広告面の大きさ、掲出位置、調査データから算出)
- インプレッション(推定接触回数): 交通量と視認率から推定される、広告接触の総回数。
これらのデータから、OOH広告がどれだけ多くの人に届いたかという「認知機会」を知ることができます。しかし、広告を見た人がその後行動したかどうかまでは判断できません。
レポート2:アンケート調査による認知度・接触態度変容でわかること
これは、OOH広告によるブランドへの影響を把握するためのデータです。
- 広告認知度: 「この広告を見たことがありますか?」という設問で、広告に接触した層と非接触の層を比較し、認知度の変化を測る。
- メッセージ理解度・好意度: 広告を見たことで、商品やブランドへの理解度や好感度がどう変化したかを測る。
- 行動意向: 広告を見たことで、「商品を購入したい」「Webサイトを検索したい」と思った人の割合を測る。
アンケート調査は「ユーザーの心理的な変化」を把握する上で有効ですが、あくまで「行動意向」であり、実際の購入やCVといった「最終的な事業成果」には直結しない点に注意が必要です。
このレポートだけではROI算出ができない決定的な理由
上記2種類のレポートは、OOHの「リーチ」と「心理的影響」は示してくれますが、以下の2点を明らかにできません。
- 売上貢献度: OOH広告に投じた費用が、最終的な売上や獲得顧客数にどの程度貢献したのか(純粋な増分)が不明確である。
- 費用対効果(ROI): OOH広告投資額を分母とした具体的な投資収益率を計算するための、分子(具体的な成果)のデータが含まれていない。
真のOOH効果測定とは、これらのレポートを基盤としつつ、Web行動データやCRMデータと組み合わせることで、抽象的な影響力を具体的な事業KPI(CVR、ROI)に結びつけるプロセスを指します。
事業KPIに直結させる「OOH純粋効果」の定量化手順(ROI算出の核心)
ここからは、OOHの「間接効果」と「遅延効果」を正しく捉え、事業KPIへの貢献度を定量化するための具体的な分析手順を解説します。
Step1:計測期間と対照期間を設定し、ノイズを定義する
正確な効果測定の第一歩は、OOH広告の出稿期間とその前後のデータを比較することです。
| 期間の種類 | 目的 | データ計測対象 |
| 計測期間 | OOH広告による効果を測定する期間 | 広告出稿期間 + 遅延効果を見込む期間(例:2週間〜1ヶ月) |
| 対照期間 | OOH広告の影響がなかった期間 | 広告出稿直前や、前年同月のデータ |
Google スプレッドシートにエクスポート
この比較を妨げるノイズ(季節性の変動、他施策の実施)を事前に定義し、対照期間のデータからその影響を除外することで、分析精度を格段に高めることができます。
Step2:OOH出稿に起因する「指名検索リフト」を算出する
OOH広告の最も分かりやすい間接効果は、ユーザーが広告を見た後にスマートフォンで企業名や製品名を検索する「指名検索」の増加(リフト)として現れます。
- Google Search Console(GSC)などのツールで、計測期間中の指名検索キーワードのインプレッション数やクリック数を抽出します。
- 対照期間の平均的な指名検索数と比較し、増加分をOOHによる純粋な効果として捉えます。
指名検索リフトは、OOH広告が「認知獲得」と「Webサイトへの誘導」という2つの役割を果たした証拠となり、次のStep3の分析を裏付ける重要な指標となります。
Step3:エリア別/期間別比較によるサイトアクセス・CV数の純粋な増加を抽出する
OOHの純粋効果を抽出するための最も基本的な手法が、「差分の差分(Difference-in-Differences)」分析の考え方に基づいた比較です。
- エリア別比較: OOH広告を出稿した「施策エリア」と、出稿しなかった「対照エリア」のWebサイトアクセス数やCV数の推移を比較します。施策エリアでのみ発生したアクセス・CV数の増加分が、OOHの効果と推定されます。
- 期間別比較: 施策期間中と対照期間中のWebサイトアクセス数やCV数を比較します。
この手法により、Web広告やSNSなど、エリアを問わず一律に実施されているデジタル施策の影響と、OOHというオフライン施策の影響を切り分けて、OOHによる純粋な増分を抽出することができます。
Step4:算出した増加値を基に、OOHのROI(投資収益率)を計算する
Step3で抽出した「OOHによる純粋なCV数または売上増加分」を元に、最終的なROI(Return On Investment)を算出します。
- ROI(%) = ((OOHによって得られた売上増加額 – OOH広告費用) ÷ OOH広告費用) × 100
この定量化されたROIこそが、OOH広告投資の正当性を証明し、今後の予算配分を決定する上での経営判断の根拠となります。
【経験則から語る】OOH効果測定を成功させるためのデータ準備と体制
OOH効果測定は一度きりの分析で終わらせるべきではありません。長期的な「資産」に変えるためには、データの準備と、それを活かす体制の構築が不可欠です。
分析に必要な4つのデータソース(自社サイト、検索、CRM、媒体)の連携
正確な効果測定は、以下の4つのデータソースの連携から始まります。特に、Webサイトのデータだけでなく、オフラインの成果や認知度を追跡できる体制が重要です。
- 媒体データ: 交通量、視認率、インプレッション
- 検索データ: Google Search Consoleによる指名検索リフト
- 自社サイトデータ: Google Analyticsなどによるエリア別・期間別のアクセス数、CVR
- CRM/オフラインデータ: 最終的な売上、来店数、問い合わせ数
これらを一つのダッシュボードで統合的に可視化することで、「OOH広告がどこで誰に届き、最終的にいくらの売上に貢献したか」という一連の流れを捉えることができます。
OOH広告を「資産」に変えるデジタル施策との統合分析の重要性
現代のマーケティングにおいて、OOH広告とデジタル広告は相互に影響し合っています。
OOH広告は「認知の土台」を作り、Web広告やSNS広告といったデジタル施策の効率(例:検索連動型広告のCTR向上、リターゲティング広告の精度向上)を高める効果があります。
この相乗効果を測定するには、OOH出稿後にWeb広告のCPA(顧客獲得単価)がどう変化したか、あるいは指名検索経由のCVRが向上したかなど、OOH広告を起点とした他の施策への波及効果まで含めて統合的に分析することが、全体の投資対効果を最大化する鍵となります。
広告費の費用対効果を最大化する「見える化・言える化・直せる化」のPDCA
SEO対策と同様に、OOH効果測定も一度の分析で終わらせず、継続的な改善サイクル(PDCA)を回すことが重要です。
- 見える化(可視化): 複数のデータソースを統合し、ダッシュボード化することで、OOHの効果を明確な数字で把握する。
- 言える化(仮説・示唆): 可視化された数字(Fact)から、広告のクリエイティブ、出稿エリア、媒体選定などに関する具体的な改善の示唆を導き出す。
- 直せる化(実行): 導き出された示唆に基づき、次の出稿計画やクリエイティブを迅速に修正・実行に移す。
この3つのステップを徹底することで、OOH広告を単なる「ブランディング投資」で終わらせず、事業成長に直結する「事業資産」へと変えることができます。
【成功事例】OOH効果測定で広告予算の最適配分を実現したケース
OOH広告の効果を定量的に測定することで、抽象的だった投資が「最適化」され、事業成果に直結した事例は数多く存在します。
事例1:来店数データとOOHの効果を紐付け、最適な出稿エリアを特定
課題: 大手小売チェーンが地方主要都市でOOH広告(交通広告・屋外ビジョン)を出稿。認知は高まったものの、どのエリアのOOHが最も来店数に貢献したか不明。
分析手法: OOH出稿エリアと、その周辺店舗の期間別来店数を分析。エリアの特性(競合状況、人口動態)をノイズとして除去した上で、「OOH出稿による純粋な来店数の増加率」を算出。
結果: 想定外に、出稿頻度が低かった特定の駅周辺でのROIが非常に高いことが判明。次期予算は効果の高いエリアに集中投資することで、ROIを大幅に改善。
事例2:ROIが不明瞭だった認知施策の費用対効果を可視化
課題: 新規参入企業が、TVCMと並行して大型の屋外デジタルサイネージを出稿。認知施策全体として効果はあったが、OOH単体の貢献度が不明瞭で、次年度予算の承認が困難。
分析手法: OOH広告非出稿エリアの指名検索数と、出稿エリアの指名検索数を比較し、OOHによる指名検索リフトの増分を定量化。さらに、この指名検索経由のCV数を金額換算し、OOH広告費と比較することで具体的なROIを算出。
結果: OOH単体でもROIがプラスであることが証明され、次年度は指名検索リフト効果の高いOOH媒体に絞って投資を継続。経営層への説明責任を果たし、マーケティング予算を維持・拡大することに成功。
まとめ:OOH効果測定は「広告投資」を「事業資産」に変える第一歩
OOH(屋外・交通)広告は、依然として強力な認知獲得手段ですが、「見えない」効果を放置することは、貴重な広告予算を投機的に終わらせることを意味します。
「指名検索リフト」や「エリア/期間比較」といった手法を用い、OOHの間接効果を定量化することで、広告投資を「事業KPIに直結する資産」へと転換することが可能です。
私たちの提供するbfj Scopeは、お客様のOOH広告を含む様々な認知施策に対して、事業KPIにどの程度インパクトを与えることができたのかを定量的に可視化することに強みを持っています。
貴社の広告投資を「なんとなく」で終わらせず、「見える化・言える化・直せる化」の3本柱で徹底的に支援することで、今後の投資判断がわかりやすくなることをお約束します。
OOHの効果測定でお悩みであれば、ぜひ一度ご相談ください。